「女王蜂」(横溝正史)

金田一耕助の事件簿019

魅力溢れる登場人物、智子、連太郎、そして金田一。

「女王蜂」(横溝正史)角川文庫

「女王蜂」(横溝正史)角川文庫

「あの娘のまえには多くの男の
血が流されるであろう。
彼女は女王蜂である…」。
不吉な脅迫状が、
義父のもとへ引き取られようと
している智子へ届く。
彼女の護衛を依頼された
金田一は、十九年前に変死した
彼女の父親との関連を…。

横溝正史金田一耕助シリーズ
長篇であり、
何度も映像化された人気作です。
絶世の美女に群がった男たちが
次々に殺されていくのですから、
ミステリとしては
面白くないはずがありません。
横溝作品特有のおどろおどろしさは
やや影を潜めたものの、
主役級の登場人物が
魅力溢れる活躍をしているのです。
本作品は三人の人物の強烈な個性の放つ
「魅力」を味わうべき作品です。

【事件簿File-019「女王蜂」】
〔事件発生〕
昭和26年6月
・東京・月琴島
・静岡・修善寺・ホテル松籟荘
・東京・歌舞伎座
〔依頼人〕
加納辰五郎
…加納法律事務所所長。
 依頼内容は大道寺智子の護衛と
 十九年前に起きた月琴島での
 青年変死事件の真相を探ること。
 ただし、それは衣笠智仁からの
 依頼であり、加納が仲介した形。
衣笠智仁
…元宮様。
 ホテル松籟荘の以前の持ち主。
〔捜査関係者〕
工藤署長…下田署署長。
亘理署長…修善寺の所轄暑署長。
安井刑事…修善寺の所轄暑刑事。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
大道寺智子
…十八歳まで月琴島に住む。美女。
大道寺琴絵
…鉄馬と槙の娘。智子の母。故人。
神尾秀子
…琴絵・智子の家庭教師。編み物好き。
大道寺鉄馬
…大道寺家先代当主。故人。
大道寺槙
…鉄馬の妻。智子の祖母。
大道寺欣造
…琴絵の夫。
 しかし智子と血の繋がりはない。
大道寺文彦
…欣造と蔦代の息子。智子を慕う。
蔦代
…元大道寺家女中。欣造の愛人。
 文彦の実母。
伊波良平
…大道寺家執事。蔦代の兄。
九十九龍馬
…加持祈祷の怪行者。
 政財界に影響力あり。
遊佐三郎
…智子の婿候補者の一人。殺害される。
三宅嘉文
…智子の婿候補者の一人。殺害される。
駒井泰次郎
…智子の婿候補者の一人。
姫野東作
…ホテル松籟荘使用人。殺害される。
日下部達哉
…欣造の友人。智子の父。
 十九年前変死。
多門連太郎
…謎の手紙に導かれる青年。
 智子に接近。
カオル
…キャバレー・ダンサー。連太郎の知人。
宇津木慎介…新日報社調査部社員。

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本作品の味わいどころ①
運命に立ち向かう美女・智子の魅力

何といっても主人公・
智子の魅力につきます。
母親譲りで母親以上の絶世の美女。
しかも和風で
古風な顔立ちでもありながら、
現代的な美しさでもある、
着物を着せても似合っているが
洋装でも一段と美貌が引き立つ、
オールマイティ型の美女なのです。
その上、自身で気づかぬうち、
周囲に大量のフェロモンを待ち散らす。
表題通り「女王蜂」なのです。

もちろん他の作品にも
美女は登場します。
主人公はほぼ美女に
決まっているのですから。
でも、横溝作品の「美女」は、
どちらかといえば清楚な大和撫子型で、
運命に翻弄されるタイプが
多かったと思います。
智子は違います。
自ら進んで運命を
切り開こうとするのです。
三人の助平な求婚者にも物怖じせずに
付き合い、毅然としている。
たとえ残酷な真相であろうとも、
自らそれを受け入れようとする。
実の父親の死の謎を解くために、
危険をも顧みずに行動する。
まさに主人公としての
魅力たっぷりです。

本作品の味わいどころ②
荒波に立ち向かう青年・連太郎の魅力

その三人の求婚者を尻目に、
智子に大接近するのが多門連太郎です。
最初は求婚者の一人と同様の
チンピラ上がりかと思えたのですが、
自信と決断力、
紳士的振る舞いと行動力、
逞しい肉体を持つ美青年であることが、
次第に明らかになってきます。
終盤で明かされるその素性も
なんと立派なもの。
まさに「女王蜂」に負けない
魅力を放っている騎士役なのです。

本作品の味わいどころ③
難事件に立ち向かう探偵・金田一の魅力

以前紹介した「迷路の花嫁」「夜歩く」は、
金田一が脇役に徹した作品でした。
脇役なりの面白さを
醸し出していたのですが、本作品は
事件が起きる前からの出馬です。

しかし事件の「調査」はしているのですが
「活躍」はしていないのです。
活躍していたら、こんなにも
人が死なずにすんだでしょうから。
でも、そこが金田一の魅力です。
犯人に常に出し抜かれ、
第二、第三の殺人を許してしまう。
ミステリにおいて
筋書きを面白くするためには、
探偵は犯人に
出し抜かれなくてはならないのです。

今回も怪老人の変装を見抜けない
(文彦は見破ったのに)、
重大な証拠物件を盗まれる、
現場にいながら殺人を防げない、
さらには自身が犯人から襲撃される、
まさに「金田一らしさ」が
そこここに溢れ出ているのです。

あまりの面白さに、全460頁、
一気に再読してしまいました。
横溝の長篇を、
何から読もうかと迷っているあなた、
この「女王蜂」から
始めてはいかがでしょうか。

(2022.12.16)

〔娘のつくった動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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(2023.3.21)

〔角川文庫「女王蜂」表紙・昭和版〕
杉本一文画伯の装丁画ですが
3バージョン存在します。

「女王蜂」角川文庫 ver.1
「女王蜂」角川文庫 ver.2

なお、ver.3は
冒頭の令和版とまったく同じです。

〔謎の人物、宇津木慎介〕
金田一の調査の手助けをする存在として
登場する「宇津木慎介」
この人物は「白と黒」「夜の黒豹」
登場して同じような役割を演じる
「宇津木慎策」とは何か関係があるのか?

似たような名前で新聞記者、
慎介は新日報社ですが、
慎策は毎朝新聞社。
金田一は二つの新聞社に
同じような名前の記者の知り合いが
いるのでしょうか。
さらにジュヴナイルには
「宇佐美慎介」なる大学生も登場します
(「片耳の男」「「蛍の光」事件」)。

横溝はこの名前が
よほど気に入っていたのでしょう。


魅力の感じられない販売姿勢

上に記したように、
横溝作品の中でも抜群の面白さの
本作品なのですが、
出版社の販売姿勢は
まったく面白くありません。
本作品は絶版することなく、
例の漢字一文字装丁の表紙で
店頭に並んでいた作品ですが、
先日取り上げた「夜歩く」同様、
昨年末にある特定の書店において、
本書を杉本一文装丁画表紙で
限定復刻したものなのです。
他の商品ならいざ知らず、
書籍の店舗限定販売とは
いったいどういうことなのでしょうか。
出版物をあまねく行き渡らせるのが
出版社の責務であるはずです。
この出版社の文庫本の最終ページには、
「多くのひとびとに提供しようとする」
と書かれてあります。
それはポーズだけなのでしょうか。
それとも書籍とは
「テキスト」だけであり、
表紙は書籍の一部と
見なしていないのでしょうか。
「夜歩く」の方は
大型店舗を構える書店でしたので、
近くにその書店がなく、
入手できないまま終わりました。
一方、本書を限定販売している書店は、
それよりも小型の店舗を
全国展開しているため、
近隣でなんとか入手できましたが、
交通の便の悪い地域ゆえ、
年配の方であれば
入手は難しかっただろうと思います。
横溝生誕120年記念を、
より多くの読者と分かち合おうとしない
出版社の姿勢には、
まったく魅力が感じられません。

〔関連記事:金田一耕助の事件簿〕

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